核をめぐる科学文化

スピンサリスコープ

スピンサリスコープ(Spinthariscope)という器具を知っていますか?

α線が蛍光体に衝突した際に見られる蛍光(シンチレーション)の検出器です。

spinthariscope

(画像はこちらのサイトから。http://www.orau.org/ptp/collection/spinthariscopes/crookes.htm)

この検出器を考案したのは、ウィリアム・クルックスです。1832年にロンドンに生まれたクルックスは、1848年に王立化学学校に入学し、分光器、写真技術および真空技術に関連した研究に従事しました。クルックスはその高い実験技術によって、いくつもの科学的発見や発明を行いましたが、1874年に発明したクルックス管は、後にコンラッド・レントゲンによるX線の発見につながりました。クルックスはまた、当時流行っていた心霊主義にも傾倒し、心霊現象に科学的なお墨付きを与える役割も果たしました。

クルックスは、専門家向けの科学雑誌への寄稿と大衆向け(科学)雑誌への寄稿をどちらも行なっていたユニークな存在でした。彼は『ケミカル・ニューズ』という雑誌を1859年に創刊し、1906年まで編集を続けました。王立研究所が主催したマイケル・ファラデーのクリスマス講演を『ケミカル・ニューズ』誌に連載し、『ロウソクの科学』として出版したのもクルックスの仕事です。

X線が発見された後、多くの科学者がこの不思議な線に関する研究をはじめますが、クルックスもその一人でした。クルックスがX線に関心を寄せた背景には、レントゲンがX線を発見したのはクルックスが先導してきた陰極線研究の最中であったことに加え、X線が写真看板を感光させ像を出現させることから、心霊現象を説明するものになるかもしれないという期待もあったと考えられます。

クルックスによる放射線研究のなかでも重要なものは、硫化亜鉛スクリーンにラジウムの放射線(α線)をあてるとシンチレーションと呼ばれる蛍光を発する現象をレンズを通して観察できることを発見したこと、そしてこの蛍光の検出器(スピンサリスコープ)を考案したことです。クルックスは1903年 5月15日に王立協会でスピンサリスコープを公開し、5月22日発行の『ケミカル・ニューズ』に報告を載せました。

放射能現象を可視化したこの器具は、商業的に売りだされ、一般の人々が放射能現象を見ることを可能にしました。

H・G・ウェルズが1913年から14年にかけて執筆した『解放された世界』では、のちに原子エネルギーを解放し、最も偉大な科学者と呼ばれるようになる少年ホルステンが、スピンサリスコープを手にします。

その頃[引用者注:1910年頃]、スピンサリスコープと呼ばれたおもちゃを誰かからもらった。それはウィリアム・クルックス卿によって発明され、ラジウム粒子が亜鉛硫化物に衝突して表面を発光させるものである。それがかれにこの二組の現象を結びつけて考えさせるようにした。かれの研究にとっては、まことに幸運な連想であった。数学的な才能を持つ者が、これらの奇妙な現象にひかれてゆくようになったのは稀にみる幸運でもあった。(H・G・ウェルズ、浜野輝訳『解放された世界』岩波書店、1997年、56頁)

ウェルズが小説で描いたように、スピンサリスコープは、大人は勿論のこと、子どもたちが放射能現象に関心を寄せるきっかけともなったのでした。

そして2014年、私は意外な場所でこの器具に出会うことになりました。

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投稿日: 2015年1月11日 投稿者: タグ: ,

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